2005年01月16日
声のちから
今日116に電話をし、固定電話の引っ越し手続きをした。ただ単に事務的な会話をしただけなのだが、電話を切ってからしばらくぼーっとしてしまい、気がつくと感動していた。対応してくれた女の人の声に感動していた。
あのような声をなんと表現すればいいのだろう。
声が小さい訳でもないのに、思わず聞き耳を立ててしまう声。
はっきりとした発声なのに、やわらかい声。
とても真剣なのに、落ち着いている声。
ただの事務的な会話なのに、まるで宇宙の秘密をこっそり打ち明けられているかのようだった。
とても大切な事を、丁寧に、真剣に相談されているかのようだった。
ひと言も聞き逃さぬよう、受話器をぎゅっと耳に押し付けていた。
まちがいなくこの人は誠実な人だなと思った。
電話を切ってからしばらくして頭に浮かんだのは「朝のリレー」という谷川俊太郎さんの詩を朗読したネスカフェのCMだった。検索しネスカフェのHPでそのCMを見た。そうしたら、まさにさっき電話口で聞いたような声の朗読だった。朗読されている方はHaLoのayakoさんだと書いてあった。彼女の「朝のリレー」の朗読と同種の感動だったと書けば、どのような声に感動したのか想像してもらえるかと思う。
116の応対をしてくれた女の人。
声だけで社会とつながっている彼女は、まさに天職のような仕事をしている人だ。
でも彼女はきっとそのことに気がついていない。
たぶん自分の声のちからを自覚していない。
そして、自分の声で感動している人がいるとは夢にも思っていない。
しかし、彼女の知らないところで感動しているのは僕だけではないはず。
彼女は太陽の光を反射する月のようだ。
ただそういう位置関係になっているから反射しているだけなのに、地球から見ているぼくたちは、その月の光にこころを奪われる。
たとえば朝をリレーしているなんて谷川さんに言われるまで思いもよらなかったように、そういうことって、けっこうあるのだと思う。いつだって大切なのは想像することだ。想像して、素敵な意味付けを試みること。
どこか遠くの部屋で、彼女はくる日もくる日も電話の応対をしている。
現実の、目に見える側面だけを見ればそれはややもすれば気が滅入るような光景だ。
でも、目に見えない部分をすこしだけがんばって想像すると、そこで彼女は一人一人の海岸に波を送っている。
じっさい耳の中の蝸牛(かぎゅう)という部分ではリンパ液が波打っている。
鼓膜を震わせた彼女の声はまず三つのちいさな骨がリレーしている。鼓膜の振動を槌骨(つちこつ)が受け、砧骨(きぬたこつ)に伝える。砧骨は鐙骨(あぶみこつ)に伝える。アンカーの鐙骨はそれを受け、蝸牛の窓をたたく。そうしたら蝸牛の中にあるリンパ液が波打つ。その波形を蝸牛の内側にある繊毛がフーリエ解析し、脳にパルスを送るのだ。
だから彼女はくる日もくる日もとおくの海岸に波を送っている。
でも彼女はその波が海岸に打ち寄せる様を知らない。
その波が波打ち際についた足跡を消したことも知らず、
その波で波乗りを試みている者の存在も知らない。
投稿者 tsuyoshi : 2005年01月16日 22:47
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://hanamote.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/23
このリストは、次のエントリーを参照しています: 声のちから:
» 「ネスカフェ朝のリレー」CMがACC賞グランプリ受賞 from from ayako
谷川俊太郎さんの「朝のリレー」という詩をネスレのCMの中で朗読させてもらっている。
私もとても気に入っているTV/Radio CM。
(テレビでは今、放映し... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年01月17日 13:13
» サッポロ麦100%生絞り from from ayako
私自身はまだTVでのオンエアを見てないんだけど、これも年末にやったナレーション。
ネット上では見れると教えていただいた。
麦100%生絞りのサイト
... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年01月17日 13:15
» ネスカフェCM「朝のリレー」放送 from from ayako
今日連絡をいただいたので、一体どういう内容で「朝のリレー」のCMが放送内容に含まれるのかわからないけれども、以下の番組で紹介される予定だそう。いずれもスカイパー... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年06月30日 13:41
