2005年10月05日

谷川連峰 湯檜曽川本谷

夜に東京を出て、真夜中に谷川の一ノ倉沢出合の駐車場で寝ました。
朝起きると、一ノ倉を登るクライマーが続々と出発していきました。憧れの目で見送りました。

しばらくして、ガスっていた空が晴れ、一ノ倉の大岩壁が見えました。
想像を遥かに越える迫力です。興奮しました。あれが南稜か、あれが衝立岩か、あれがコップ状岩壁か、あれが滝沢第三スラブかと、登攀記などで名前だけは知っている岩壁を眺めました。そして近いうちに南稜で一ノ倉デビューをしようと思いました。
しかし、一ノ倉沢出合いあたりには、無数の慰霊碑がありました。ちょっとした岩に所狭しと名前と年齢が刻まれたプレートがあるのです。どれもだいたい30年ぐらい前のものです。そして20代ばかりでした。岩壁登攀が若者の間で熱かった時代の、悲しい記憶です。一ノ倉は世界で一番遭難者が多い所だとは知っていました。でも、名前と年齢を見たらそれがとてもリアルに感じられ、胸が詰まりました。とても他人事とは思えませんでした。しかし、それでもなお一ノ倉の岩壁は美しかったです。


ぼくと牧野は沢の準備をして、湯檜曽川本谷へ向かいます。
ナメ、ナメ滝、瀞、など本当に美しいとしか言いようのない渓相です。釜を泳いだり、へつったりして進みました。水が冷たく、泳ぐとぶるぶる震えました。

途中に現れた10メートル滝は、斜上バンドをたどりました。流水のど真ん中を横断するのはなかなか楽しかったです。しかし斜上を終え直上に移るあたりの一歩が細かく、少々緊張しました。

夕方に二俣で泊まり、焚き火をして体を暖めました。
なんど見ても焚き火の美しさは比類のないものです。
翌日、源流部を詰め、わずかのヤブ漕ぎで朝日岳の頂上に突き上げました。
朝日岳から白毛門を経由し、土合駅まで縦走しました。稜線近くはもう紅葉が始まっていました。

憧れだった湯檜曽本谷はやはり美しい谷でした。
技術的には中級の沢なのだけれど、時期と天候が良かったおかげで思ったより簡単でした。

こうやって経験を積み、もっと難しい沢も遡行できるようになれば、どんな滝が現れても、どんな悪いゴルジュになっても通過できるという自信もおのずとつくでしょう。そうしたら未知の、遡行図のない沢でも、ただ地形図だけで入っていける自信もつくでしょう。そしてそうなれば、もうひとまわり自由になれると思うのです。

自由に、山や谷を歩ける。
それは、動物としての人間の強さでもあり、野性を取り戻すことでもあります。ぼくにとって、「強くなりたい」という願いは「自由になりたい」という想いと同じ響きがあります。何かに依存しないでも生きられるという自信が自由になることなのかもしれません。そういう意味では、理想としてはとてもシンプルな装備で、山や谷に入っていきたいです。きっと、経験を積めば積む程、装備はシンプルになっていくだろうし、そうありたいです。

自由を求めれば、足場が不安定になるのは必然です。そして、不安定であれば、否が応でも真剣になります。真剣になると、研ぎ澄まされます。文字通りの自分の生死がかかっている状況では、誰だって真剣にならざるを得ません。そうやって得た経験は、自身の中に確実に積もり、知恵になります。僕はそれが強くなることでもあり、自由になることでもあると思います。

何かに依存することなく、不安定な足場を悠々と歩けるような自由。そんな状態は、「いまここ」に生きているという充実感にあふれているし、とっても楽しい。だから、僕はもっと自由になりたくて山に行き続けています。僕は自由になることを諦めない。必要なのは、たくさんの勇気と、バランス感覚。

山は、それを学ぼうとする者にはどこまでも教えてくれる学校です。僕は、学習速度は遅いけれどなかなか勤勉な学生です。勉強はとても楽しいです。

投稿者 tsuyoshi : 2005年10月05日 18:18

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://hanamote.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/62

コメント

一ノ倉は世界で一番遭難が多いのか。。。遭難が多いのは知っていたけども。。
すごく好きな山で、一度は登ってみたい。実家の屋根から見る冬の谷川岳が大好きです。

いつだったか群馬の実家の近所のおばさんが登りに行った時に、霧のまく中、下山する様子もなく結構軽装で(ハイキング程度?)上を目指していた人と遭遇。。次の日に遭難しちゃったらしいです。子供心には非常に恐ろしく感じたお話でした。(笑)

投稿者 すわん : 2005年10月08日 22:33

実は僕もまだ谷川岳は登ったことないです。JRの駅にある自販機の、一ノ倉の写真を見る度に、「一ノ倉かっこいいなー」と思い、特にまんなか辺りにある衝立岩がかっこいいなーと思います。三角形で、垂直なのでそこだけ雪が付いていない岩です。いきなり衝立岩は無理だから、そのちょっと左の南稜から谷川に登りたいなと思っています。

投稿者 tsuyoshi : 2005年10月10日 19:00