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2005年12月31日
腹をくくる感覚
先週の金曜日、今週の木曜日、金曜日と湯河原幕岩に行きました。
宿題だった「シャックシャイン10d」がようやく登れほっとしたのも束の間、次は「ダイヤモンドヒップ11a」に目標を定め、四苦八苦しています。
クライミングはきりがありません。常にもっとうまくなりたい、もっと高難易度のルートを登りたいと思うので、ようやく目標だったルートをレッドポイントすると、すぐに次の目標を定め取り組んでしまいます。次の目標は当然限界を押し上げるものを設定するので、またとても苦労します。もっとすぐに上達できたらいいのに、上達はちょっとずつです。ほんとうにカタツムリのように遅々たる前進です。これだけやりこんでいるのだからもっと飛躍的に上達してもいいじゃないかと思うのだけれど、何の成果も出せずにうなだれて帰ることがしばしばです。自分のへたくそさに敗北感でいっぱいになります。ようやく登れるとその瞬間は叫びたい程嬉しいけれど、喜びも束の間すぐに次の目標を定めてしまい、それがまた簡単には登れず、宿題になってしまい大変です。
はっきり言って登っているときも登る前も、ものすごいストレスです。できることなら登りたくないと思ったりもします。なぜなら登り始めると、高くて怖いし、難しいし、腕は張ってくるし、指は痛くなってくるし、落ちたくないしで辛いからです。自分の限界グレードなのだから中途半端な気持ちで取り付いても絶対に登れません。気持ちを戦闘態勢に切り替えて、集中しなければはね返されるだけなのだけれど、湯河原は暖かく、平和で、どうしてこんな平和な場所で全身全霊のうなり声を出しながら岩にへばりつかねばならないのだろう?と疑問を抱いてしまうのは当然で、そこからモチベーションを高めるのが大変です。
でも、おかしなことに楽しいのです。
核心部をイメージ通りに登っていくときの「これこれ」とテンションが上がってくる感じがたまりません。壁を見上げてこのルートを登り切ったらなんて素敵なのだろうとわくわくします。終了点直下で「慎重に慎重に」と言い聞かせつつ足を運び、あともう少しで登り切るというときの胸の高鳴りを想像して恍惚となります。
クライミングをしていたら何度か「腹をくくる瞬間」に出会います。簡単に登れる場所を離れ、際どい部分に差し掛かる直前に、息を大きくはき「よし」とつぶやいてつっこむ時です。別につっこんで落ちてもロープにぶら下がるだけなのだけど、落ちるのはやはり生理的に嫌だし怖いので、一度弱気な気持ちを捨てて、覚悟を決めないと安全地帯から離れられません。そして絶体絶命の限界ぎりぎりの場面があり、落ちたり登ったりするのです。あの「よし」と腹をくくる感覚がとても好きです。クライミングをしていると学んだり気づいたりすることがたくさんありますが、この腹をくくる感覚は最重要の一つだなと思っています。
投稿者 tsuyoshi : 00:45 | コメント (4) | トラックバック
2005年12月18日
帰還兵10c レッドポイント
フリークライミングでは、同じ完登(下から一度も落ちることなく上まで抜けること)でも2種類あります。
初見でそのルートを登ることを「オンサイト」といい、複数回トライして登ることを「レッドポイント」といいます。
金曜日にまた湯河原に行ってきました。
強い冬型の気圧配置で今年一番の冷え込みだとニュースでは言っていたけれど、岩場の前は温室のように温かく、Tシャツ一枚で昼寝ができるような快適な日でした。
目標は前回何度かロープにぶら下がりつつも上まで抜けた「帰還兵10c」のレッドポイント。
一回目は核心部でフォール。昼寝をして気を取り直して、二回目でレッドポイントしました。初めて「帰還兵」を触ったのはおそらく二年ぐらい前になります。ようやく登れました。とても嬉しかったです。それから「シャックシャイン10d」をロープにぶら下がりながら上まで抜けました。次の目標です。oki氏も「コンケスタドール12a」をレッドポイントしました。帰りに温泉に入り、二人とも成果が出たのでお祝いに焼き肉を腹一杯食べました。ものすごく充実した一日になりました。
投稿者 tsuyoshi : 11:52 | トラックバック
2005年12月11日
久しぶりの湯河原幕岩
湯河原の幕岩に行ってきました。
写真は「コンケスタドール5.12a」のムーブ(登り方)を探るおうき氏。フィンガリーでテクニカルなルートだそうです。僕は同じ壁の二つばかり右側の「帰還兵5.10c」にトライしました。“レイバック”という独特な登り方を必要とするテクニカルなルートです。何度かロープにぶらさがりつつも、上まで抜けることができ、登り方は解決しました。あとは下から繋げるだけです。
久しぶりの湯河原でした。
そして久しぶりのロープを使ったクライミングでした。
小川山でボルダリングばかりしていたので、実は劇的なボルダリング力の上達を期待していたのですが、結果は「若干上達していた」に過ぎませんでした。以前登れなかった「帰還兵」が、何度かロープにぶら下がりつつも、どうにか上まで行けたというぐらいの変化です。すいすい登れるって訳にはいきませんでした。でも、登るに際して思い切りは良くなったようです。核心部で、臆することなく最大限の力を出すことは前よりできるようになりました。これは大きな変化です。
久しぶりの湯河原は暖かく、とても楽しかったです。
先週の小川山は不完全燃焼だったのですが、昨日の湯河原はいいクライミングができました。
クライミングの楽しさは、日常では決して出すことのない程の、最大限の、全身全霊の力を出す瞬間があることです。ものすごくがんばる瞬間があることです。
今回もそういう瞬間がありました。腹から意識せずに声が漏れ、頭が真っ白になる、いよいよスイッチが入った無我夢中の瞬間です。そういう瞬間は明らかに自分が変身しています。こんな自分がいたのかと後から驚く程です。その時の数秒間の自分はとてもいい奴です。強いなって思います。
100%の力を出し切ることって、日常ではなかなか難しいですが、クライミングでは、核心部でそういうがんばりを要求されるし、そういうがんばりがないクライミングは面白くありません。
だから、登れるかどうか分からないけど、100%の力を出せば登れる可能性のあるものを自分の取り組む課題にしてがんばるのです。目標設定が高すぎると手が出なくて楽しくありません。「ぎりぎりの目標」を設定することがポイントです。そしてこれってクライミング以外でも大切なことだなと思ったりします。
12月いっぱいまで、クライミング中心の生活をします。
最近はクライミングのことばかりの文章で、興味のない方は面白くないかもしれません。でも僕は読んで面白い文章を書きたいのではなく、自分が本当だと思える言葉を書きたいのです。クライミングにウツツをぬかし、脳まで筋肉にして思考停止をしている訳ではありません。
何も放棄していないし、何も諦めていません。それどころか、クライミングにのめり込むことで、よりいっそう諦めないぞという覚悟を育てている気がします。
投稿者 tsuyoshi : 00:11 | トラックバック
2005年12月01日
指が覚えるということ
「エイハブ船長 1級」の想像クライミング。
左手を縦のガバに、右足をのせ、右手のガバポケットを取る。左足をのせ、右足は外し、左手を一度縦カチを中継してから、非常に悪い縦カチを取る。がんばって左手の縦カチで耐えながら、右足を上げ、左足はスメア。右手のガバポケットは若干横向きに利かせる。その体勢でランジで右手のカチを取る。体が止まったら右足をガバポケットへいれ、右手でリップをとる。左足を縦カチに上げて、左手もスローパーぎみにリップをとる。右足をあげ立ちこみ、慎重にマントルを返す。右手でポケットをとり、体を上げ切り終了。核心は左手の悪い縦カチで耐えながらのランジと、左手がスローパーのマントル。
こう書いて意味が分かる人はクライミングをやっている人。専門用語だらけです。「ガバ」とか「カチ」とか「スローパー」とか「ポケット」とかは手がかりの形状です。「ランジ」とか「マントル」とかは特徴的な体の使い方のことです。
エイハブ船長は、僕の場合6、7手です。ボルダリングとは、2〜4メートルの岩(石ころ)を、ロープを付けずに登ることです。極端に難しい動きがあり、何度も何度も触り、何度も何度も落ち、ようやく動きを覚え、そして登るのです。ボルダリングは、ほとんどの場合落ちます。だから落下点にマットを敷くのが普通です(敷かない主義の人もいる)。何度も落ちつつ、一手また一手と最高到達点を伸ばしていくのです。何度も触るせいで、岩の形状を覚えてしまいます。どこに足を載せるか、手がかりをどう持つか、くっきりはっきり覚えます。
「エイハブ船長」は、小川山の廻り目平キャンプ場の林の中にある「くじら岩」という巨岩にあるクラシカルな名課題です。おそらく日本でもっとも有名な課題の一つです。20年ぐらい前に、とある人(中山氏という方)がクジラ岩の縦にあるしわを見て、登れる可能性を見いだし、挑戦し、登り、「エイハブ船長」と名付けた課題です。20年前に、よくもここを登ったなと、びっくりしてしまいます。ボルダリングの難しさの「1級」というグレードはこの「エイハブ船長」と、御岳の「忍者返し」に固定され、この課題を基準として他の課題の難しさを決めているそうです。
今では、ハイシーズンにはクジラ岩の周りには、たくさんのボルダラー(ボルダリングをする人のこと)がいます。特に若者の間でボルダリングはかなり人気です。
僕がはじめて小川山のボルダーエリアに行ったときは、ちょっと引きました。黙々とストイックに岩に張り付いている姿が、あまりにもマニアックに見えたのです。手がかりを歯ブラシで掃除し、何度も同じところを登っている姿は、やはり外岩でのボルダリング経験のあまりない感覚で見ると、とてもマニアックに見えます。でも、気がついたら僕も枝の先に歯ブラシをつけて、手が届かないホールドをごしごし掃除して掛かりを良くし、嬉々として登っていました。手にチョーク(炭酸マグネシウム)をつけて滑り止めにして登るのですが、チョークが手がかりにつきすぎると掛かりが悪くなるから歯ブラシでこするのです。
客観的にただ岩を見ているだけでは、どこにでもある岩でしかないのですが、体がその岩の、その課題の、手がかりや足がかりの位置を覚え、体の動きが染み込んでくると、ちょっと恋したような状態になってしまい、またその課題に触りたくて、うずうずしてしまいます。ボルダリングは何度もその課題に、執拗に執拗に触るせいか、いつの間にか岩との親密度がものすごく強くなるのです。川端康成の『雪国』の冒頭部分に、主人公が自分の左手の人差し指をしげしげ眺め「結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている」というくだりがあるのですが、とても似ています。クライマーもまた、指先が岩をなまなましく覚えています。
今でも、「穴社員3級」や「ライトスパイヤー3級」の手がかり足がかりの一つ一つを鮮明に覚えています。
「穴社員3級」はこんな具合でした。
左手をピンチでとり、左足は極小スタンスに立つ。右手でポケットをとり、右足をすこしハイステップぎみの大きめのスタンスに上げる。右手でさらに奥のポケットをとり、左足をきり、右足に重心を移動し、クロスで左手でガバポケットをとる。スタンスを入れ替え、右足をポケットに置き、そこに体重をのせ、右手でポケットを中継しつつ、体を伸ばし切り、思い切りよくカチをとる。カチでマッチして、左足をガバポケットに入れ、左手でリップをつかむ。右足は“手に足”で立ちこみ、右手でリップをつかみ、マントルを返し終了。核心は左足を切ってからのクロスムーブ。
こう書きながら、僕は手を交差させて左手を伸ばしたあの体の動きを、手に汗をかくぐらいありありと思い出しています。手がかりの形状や、岩の摩擦の具合は、確かに指がなまなましく覚えています。体を岩に乗せ切るときの緊張感や、登り切った時の安堵感もはっきり覚えています。
ほんとうに林のなかの、どこにでもあるような岩、石ころを登っているにすぎません。
でも、いちど課題に取り付いてしまい、その課題の虜になると、その岩のその課題がかけがえのない大切なものになります。その形状をした岩はそこにしかなく、世界でただ一つだからです。どこにでもあるただの岩が、世界にただ一つの「その岩」になるという過程がボルダリングの醍醐味かもしれません。
だから、その岩に触るために、わざわざ時間とお金をかけて行くのです。異性に恋する過程とすごく似ています。でも、登り切ってしまえばあっさりと次のより難しい課題に気が移る辺りは、ずいぶん違います。女の子相手にそんなことをするとややこしくなる場合が大半だけど、岩は黙っています。こちらが勝手に熱をあげ、勝手に気移りしているだけです。
今週も金、土曜日と小川山に行きます。
もう寒すぎるので小川山は今シーズン最後になります。
エイハブ船長、絶対に登ってきます。
いまはそのことで頭がいっぱいです。
ちょっと緊張してます。
(12月8日追記)
先週の小川山は日中でも零度前後と寒く、金曜日には雪も降り、体がうまく動かず、集中もいまいちで、全力を出せずに終わってしまいました。とても残念です。でも、雪は初日だけで二日目には融けたのだし、岩はよく乾いていたのだし、寒いことは予想していたので、結局は集中し切れなかった自分の力不足でした。
初日は、前回できなかったランジ(飛びつき)で取るこの課題の核心の動きができ、とても調子が良かったです。でも雪が積もりだしたので、マントル(岩に乗り上げる動き)は危険だと思いそれ以上はやりませんでした。次の日に、雪が融けてからやろうと思ったのです。
でも、二日目はなぜかランジが決まらなくなりました。そして何度もトライしている内に疲労してきて、ランジすることさえできなくなり、終わってしまいました。二日目は土曜日だったせいか、この寒いのに多くの人がボルダリングをしにきていました。僕は人が多いと気が散ってしまうようです。それで集中しきれず、力を出し切れませんでした。絶対登るぞと思って来ていたのに全力を出すことができず、なによりそれが残念で情けないです。「永遠の数秒間」は結局一度も味わえませんでした。寒いやら痛いやらで散々でした。本番において全力を出すことが、一番大切なことで、また難しいことでもあるということがよく分かりました。メンタルな部分のコントロールについてはいい勉強になりました。でも、それにしても残念でした。
次にいつ小川山に行けるのか、今の時点では全く分かりません。今月もう一回行けるかもしれないし、来年の4月以降かもしれないし、あるいはタイミングを逃したら何年も行けないかもしれません。12月は御岳でのボルダリングと湯河原でのリードクライミングの予定です。クライミングは相変わらず楽しいです。
