2006年10月17日
単独行で目にする美しさについて
沢登りをしているとたまに、有史以来一度も人間が訪れていないだろうと思われるような場所にいることがある。
ナルミズ沢から山一つ隔てた東黒沢を遡行しているとき、源流部のツメで間違った沢に入り込んでしまった。間違いに気づいて薮漕ぎをしているときに、もしここで何かの拍子に死んでしまったらまず見つからないだろうなと思っていた。
単独行のとき僕は「いま死んだらどういうことになるのだろうか」と考えていることがある。特に、まずだれからも見つからないだろうという場所にいるときによく想像している。自転車旅をしているときも、たとえばチベットの荒野の道を外れた岩陰などに野宿しているときなどに、よく想っていた。単独行をしているときは、程度の差こそあれ常に自分の死を想っている。特別な心境にあってもなくても、想う人がいてもいなくても、危険度が高くても低くても、それほど関係はないと思う。死を想うということは僕にとって、単独行をするということの一部になっている。
僕は、友人と一緒に山に行くのも、一緒に旅をするのも好きだけれど、たぶん単独行が一番好きだと思う。そしてときどき、どうしても単独行をしなくてはいけないと思うときがある。
一人で、ヒトが誰もいない場所へ行くと、精神にこびりついていた贅肉が削ぎ落とされていくように感じることがある。そして、社会的文脈の中で見失いがちな本当に大切なことを思い出させてくれる。
もし僕が死んだら誰が悲しむだろうか、誰はそんなに悲しまないだろうか。死ぬ前に誰かに会えるとしたら、誰に会いたいだろうか。死ぬ前に何かできるとしたら、何をしたいだろうか。そんなことを考えることで、精神の贅肉を落としていくのだと思う。だから、死を想うことと、死にたいと想うことは、一見似ているようだがそのベクトルは逆方向だと思う。
沢登りをしていると、死はそれほど抽象概念ではない。
どんな簡単な沢でもスリップは絶対に許されないという場所はあるし、事故というものはだいたい技術的に難しい箇所ではなく、比較的簡単な場所で起こるものだから。
それが単独行だとさらに、骨折さえ場合によっては致命的になる。だから僕は単独行のときは、臆病なほど慎重に行動している。
しかし、そういう危険を自覚し、それを引き受けた上で目にすることができる光景もある。
単独行のときには、単純に天気の善し悪しだけではない光景の美しさを目にすることがある。物理的には同じであるはずの光景のなかに、単独行でしか目にすることのできない美しさが宿るときがある。そしてそういう光景を目にすると、大好きな女の子と目が合ったときのように胸が詰まり、息ができなくなり、とても嬉しくなる。
投稿者 tsuyoshi : 2006年10月17日 03:17
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://hanamote.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/127
コメント
この時期、、沢は泳いだんでしょうか?
沢の光景を想像し、行ってみたいと駆られます。
寒かったんだろ~なぁ、とかチープな事を思います。
とりあえずお疲れ様!
もうそろそろ自分も時間を取れそう。
一緒に遊びましょー。
投稿者 グッチ : 2006年10月17日 20:37
同じような気持ちに駆られる時があります。
自分が生きていくうえで、無意識のうちに求めているもののような気がします。
投稿者 てらまち : 2006年10月18日 00:34
グッチさんこんばんは。
天気が良かったので、そんなに寒くはなかったです。
でも、泳いだら簡単に通過できるという場所も、濡れると寒いので泳がずに巻いていました。
夜はちょっと寒く、シュラフの中で丸くなってました。
ぎりぎりまで、あと数回は沢に行く予定です。
また一緒にクライミングなどしましょー。
てらまちくんこんばんは。
よく難病を告知された途端に世界が輝いて見えるという話を聞くけれど、考えてみれば時間の長短の違いがあるだけで、難病であろうがなかろうが、いずれ必ず死ぬということに変わりはないと思いました。
そしてそう考えると、同じ世界をより美しく見ることは、難病を告知された者だけの特権ではないなとも思いました。
こういう言い方は、もしかしたら傲慢なのかもしれないけれど…。
投稿者 tsuyoshi : 2006年10月18日 00:47
この数日ろくに睡眠も取らずに会社の建物にこもっています。健康を害しているという意味で、死が近づいているとも言えるけど、世界はなかなか輝かないです。
沖縄にも沢があるそうなので、いつかハブの出ない次期にいってみようとおもいます。
夏にリードクライミングをしました。いい場所だったので、いつかいっしょに行こう。
投稿者 oki : 2006年10月18日 15:59
おうきくんお久しぶり。
僕はここ数日部屋にこもって惰眠をむさぼっており、くたくたになっています。世界が輝くのは、外を歩いてるときに素敵な女性とすれ違ったときです。ちゃんと注意して歩きましょう。そういえば去年の今ごろはお互いに岩を見て興奮してたね。あー、沖縄行きたいなー。
投稿者 tsuyoshi : 2006年10月19日 01:42
